経済オタクの独り言

1980年生まれの専業投資家。株式歴20年、海外CFD/バイナリー歴10年超。この国が好きだからこそ、言うべきことは言う。

経済指標カレンダーの読み方:プロが本当に見ている5つの数字

経済指標カレンダーを見たことがあるだろうか。

 

毎週、毎月、数十もの経済指標が発表される。GDP、雇用統計、消費者物価指数、鉱工業生産指数、貿易収支、住宅着工件数──数え上げればキリがない。経済ニュースでは「今夜は米雇用統計の発表です」「注目のCPIが発表されました」と報じられるが、実際のところ、これらの数字をどう読めばいいのか分からないという人は多いはずだ。

 

私は20年間、経済指標と向き合ってきた。その経験から言えば、本当に重要な指標は実はそれほど多くない。今日は、プロの投資家が実際に注目している5つの数字について、その読み方を解説する。

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【連載②】アベノミクスの光と影──投資家だけが知る「あの時の空気」

 

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2012年12月26日。第二次安倍内閣が発足したその日を、私は鮮明に覚えている。

 

あの日の日経平均は10,230円。今の水準から見れば信じがたい数字だが、当時はそれが「日常」だった。日本株は長期低迷の只中にあり、「株をやっている」と言えば変わり者扱いされる。そんな時代だった。

 

だが、空気は一変する。

 

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インデックス投資の「落とし穴」──思考停止の積立は本当に安全か?

はじめに

「とりあえずインデックスファンドを積み立てておけば大丈夫」。

この言葉を、どれだけ多くの場所で見聞きしただろうか。金融系YouTuber、マネー雑誌、SNSの投資クラスタ。あらゆるところで、インデックス投資は「正解」として語られている。

私自身、インデックス投資を否定するつもりはない。20年以上相場に向き合ってきた経験から言えば、個人投資家にとって合理的な選択肢の一つであることは間違いない。

しかし、「思考停止の積立」が本当に安全かと問われれば、私の答えは明確だ。

安全ではない。

今日は、インデックス投資の「語られない部分」について書く。

1. 「長期なら必ず上がる」という神話

インデックス投資を勧める人間が必ず持ち出すのが、過去のチャートだ。

「S&P500は過去30年で○倍になった」「15年以上保有すれば元本割れしたケースはない」。

事実だ。過去のデータを見れば、確かにそうなっている。

だが、ここに落とし穴がある。

過去のリターンは、未来を保証しない。

これは投資の世界で最も基本的な原則のはずだが、インデックス投資を語る文脈ではなぜか忘れ去られる。

過去30年の米国株のリターンには、冷戦終結後のグローバリゼーション、IT革命、量的緩和という歴史的な追い風があった。これと同じ条件が今後30年続く保証はどこにもない。

 

2. 「何を積み立てるか」を考えていない人が多すぎる

インデックスファンドと一口に言っても、中身は全く違う。

S&P500に連動するファンド。全世界株式のファンド。日経225のファンド。

「インデックス投資をしています」と言う人に「何のインデックスですか?」と聞くと、答えられない人が意外に多い。

特に気になるのは、全世界株式ファンドの中身だ。「全世界に分散しているから安心」と思っている人が多いが、実態はどうか。

時価総額加重平均で構成されている以上、全世界株式ファンドの6割以上は米国株だ。「全世界に分散」と言いながら、実質的には米国経済に大きく依存している。

分散しているつもりで、していない。これが現実だ。

 

3. 積立を「やめる時」のことを考えていない

積み立てる方法は、あちこちで語られている。

だが、取り崩す方法を語る人は極端に少ない。

65歳で退職して、積み立てたインデックスファンドを取り崩し始める。そのタイミングでリーマンショック級の暴落が来たらどうなるか。

「シークエンス・オブ・リターンズ・リスク」と呼ばれるものだ。

同じ平均リターンでも、取り崩し初期に暴落が来ると、資産の減少スピードが加速する。回復を待つ間にも生活費として取り崩し続けるからだ。

積立期間中は「暴落はバーゲンセール」と言えるが、取り崩し期間中の暴落は、単なる資産の毀損だ。

この問題に対する解答を持たずに「とりあえず積み立てる」のは、出口のない迷路に入るのと同じだ。

 

4. コストの問題は解決されたのか

「インデックスファンドの信託報酬は低い」。確かにその通りだ。

年0.1%を切るファンドも珍しくない。アクティブファンドの1〜2%と比べれば圧倒的に低い。

しかし、信託報酬だけがコストではない。

隠れコスト──売買委託手数料、監査費用、そしてベンチマークとの乖離(トラッキングエラー)。これらを含めた実質コストは、信託報酬だけを見ていてはわからない。

運用報告書を読んだことがあるだろうか。読んだことがない人が大半だろう。

自分の金がどう運用されているか、年に一度くらいは確認してほしい。



5. 私の結論

インデックス投資は、優れた投資手法の一つだ。それは否定しない。

だが、「思考停止で積み立てればOK」という態度は、投資ではない。怠慢だ。

最低限、以下のことは理解した上で積み立ててほしい。

  • 自分が何のインデックスに投資しているのか
  • そのインデックスの構成比率はどうなっているのか
  • 出口戦略をどう考えているのか
  • 暴落時に本当にホールドし続けられるのか

「何も考えなくていい投資」など、この世に存在しない。

 

 

楽をしたいなら、せめて楽をするための勉強はしろ。それが、20年相場を見てきた私の、率直な意見だ。

 

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※本記事は個人の見解であり、特定の金融商品を推奨するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。

米国株 vs 日本株:20年投資してわかった、たった1つの結論

「結局、米国株と日本株、どっちがいいの?」

投資を始めた人から一番よく聞かれる質問が、これだ。

新NISAが始まってからは、さらに増えた。「S&P500だけ買っておけばいいんですよね?」という質問には、もはや数えきれないほど遭遇する。

僕は日本株を20年、米国株も15年近くやっている。両方に実弾を入れて、両方で儲けて、両方で損をしてきた人間だ。

今日は、その20年の経験から出た「たった1つの結論」を書く。

先に答えを言ってしまうと、「どっちも必要だ。ただし、理由が違う」ということになる。

 


まず、数字を確認しよう

ここは感情を排して、事実だけを並べる。

 

S&P500(米国)

S&P500の長期平均リターンは年率約10%(ドルベース、配当再投資込み)。1957年の算出開始以来、一貫して右肩上がりのトレンドを維持してきました。

過去20年間で見ると年率約8%。100万円を20年前にS&P500に投資していれば、ドルベースで約466万円になっている計算です。

さらに、この20年間で一度も15年以上の保有期間でマイナスになったことがない、というデータもあります。

 

日経平均(日本)

一方、日経平均は2006年3月時点で約17,000円。2026年3月現在は56,000円台(イラン・ショック後の水準)。20年で約3.3倍。年率換算で約6%前後です。

ただし、ここには大きな「でも」がつく。

2006年から2012年まで、日経平均は8,000〜10,000円台をウロウロしていた。つまり、最初の6年間はほぼ「塩漬け」状態。利益が出始めたのはアベノミクス以降の2013年からで、実質的には13年で3.3倍にしたようなものだ。

この「最初の6年間の苦痛」を耐えられたかどうかが、日本株投資家の明暗を分けた。

 


数字だけでは見えない「体感」の違い

20年やってきた人間として、数字以上に大事だと思う「体感の違い」がある。

 

米国株の体感:「乗っていれば勝てる」安心感

S&P500に長期投資していると、暴落があっても「どうせ戻るだろう」という感覚が生まれてくる。リーマンショックもコロナショックも、結果的に全戻しどころか新高値を更新した。

この「勝ちパターンの記憶」が、ホールドする力になる。NISA口座でS&P500の積立が圧倒的人気なのは、この体感が広まっているからだろう。

ただし、ここに落とし穴がある。

 

日本人投資家の宿命:為替リスク

S&P500がドルベースで年8%上がっても、同じ期間に円高が進めば、円ベースのリターンは大きく目減りする。

逆に、ここ数年のように円安が進めば、為替差益が上乗せされて「S&P500最強」に見える。2024年の円ベースでのS&P500リターンが異常に高く見えたのは、円安の恩恵が大きい。

つまり、日本人が米国株に投資する場合、「株のリターン」と「為替のリターン」が混ざっている。この2つを分けて考えないと、判断を誤る。

今週、ドル円は157円台。もし今後、日銀の利上げが進んで140円台まで円高が進んだら? S&P500が横ばいでも、円ベースでは10%以上のマイナスになり得る。

 


日本株の体感:「地の利」がある

一方、日本株には数字に表れにくい優位性がある。

 

①為替リスクがない。 当たり前だが、円で買って円で売る。為替で裏切られることがない。

 

②情報の質が高い。 日経電子版、株探、四季報、決算短信──日本語で、リアルタイムで、深い情報にアクセスできる。米国株の情報を英語で同じ深さまで追える日本人投資家は、正直少ない。

 

③生活実感と投資が繋がる。 スーパーの値札で物価を感じ、電車の混み具合で景気を感じ、コンビニの新商品で消費トレンドを感じる。この「肌感覚」は、日本に住んでいる投資家だけの武器だ。

僕が日本株を20年続けている最大の理由は、この「地の利」にある。

 


「S&P500だけでいい」が危険な理由

「S&P500だけ買っておけばいい」は、2024年までの相場環境ではおおむね正解だった。だが、これを「永遠の真理」と思い込むのは危険だと僕は思っている。

理由は3つ。

 

① 米国株の「一人勝ち」が永遠に続く保証はない。

過去20年の米国株の好調は、GAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)を中心としたテック企業の成長に大きく依存している。この構図が今後20年続くかどうかは、誰にもわからない。

 

② 為替のトレンドは変わる。

円安が永遠に続くわけではない。日銀の利上げ、米国の利下げ、あるいは地政学的な変動で円高に振れれば、米国株の円ベースリターンは急激に悪化する。

 

③ 分散の本質を忘れている。

投資の基本は分散だ。「S&P500は500社に分散されているから大丈夫」という人がいるが、それは米国経済への一点集中に変わりはない。通貨も、国も、分散する意識が必要だと思う。

 


20年の結論

で、結局どうするのか。

僕の答えはシンプルだ。

米国株は「成長」を取りに行く枠。日本株は「地の利」で勝負する枠。

この2つは、役割が違う。どちらかが上か下かの話ではない。

具体的には、僕のポートフォリオは大まかに「日本株6:米国株4」の比率だ。日本株は個別銘柄中心。米国株はインデックス(S&P500)が軸。

なぜ日本株を多めにしているかといえば、個別銘柄の選択で「地の利」を活かせるのが日本株だからだ。米国の個別株を、英語のIR資料を読み込んで判断する自信は、正直言ってない。だからインデックスに任せる。

この配分が正解かどうかは分からない。でも、20年かけてたどり着いた「自分にとっての最適解」ではある。

 


初心者へのひと言

もし投資を始めたばかりの人がこの記事を読んでいるなら、1つだけ伝えたい。

「どっちがいい?」ではなく、「どっちもやってみる」でいい。

NISAの積立枠でS&P500を毎月コツコツ買いながら、成長投資枠で気になる日本企業を1つ買ってみる。それだけで十分だ。

大事なのは、自分の体験を通じて「体感」を蓄積すること。他人の正解は、自分の正解とは限らない。

 


ひとりごと

20年前、僕は「日本株だけで十分だ」と思っていた。10年前、リーマンの痛手から「やっぱり米国株だ」と思った。そして今、「両方やるのが一番楽だ」と思っている。投資の結論なんて、10年ごとに変わるものだ。変わらないのは「自分の頭で考え続けること」くらいかもしれない。

 

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信用取引で500万円溶かした話──あの頃の僕は、投資をしていたんじゃない

これは懺悔だ。

今日は、過去の失敗を書く。

信用取引で500万円を溶かした話。

このブログでは普段、数字やデータに基づいた話を書いている。でも今日は違う。感情の話だ。あの頃の僕がいかに愚かだったか、包み隠さず書く。

読んでくれた人が、同じ轍を踏まないことを願って。

 


2007年──「俺は相場がわかっている」という慢心

株式投資を始めて5年が経っていた。

2003年の日経平均7,600円台で買い始めた僕は、2007年には日経平均18,000円台の恩恵をたっぷり受けていた。含み益は膨らみ、「自分には才能がある」と本気で思っていた。

今思えば、あれは才能じゃない。地合いだ。上昇相場に乗っかっていただけだ。

でも当時の僕にはその区別がつかなかった。

そして、信用取引に手を出した。

 


信用取引とは何か

知らない人のために簡単に説明しておきます。

信用取引とは、証券会社から資金や株を借りて取引する仕組みです。自分の資金(保証金)の約3.3倍までの取引ができます。

つまり、100万円の保証金があれば、約330万円分の株を買えるということです。

株価が上がれば利益も3倍近くになる。しかし、下がれば損失も3倍近くになる。さらに、含み損が一定額を超えると「追証(おいしょう)」──つまり追加で保証金を入れなければならない。入れられなければ強制決済される。

現物取引しかやったことがない人にとっては、この「追証」の恐怖は想像しにくいかもしれません。

 


最初の3ヶ月──「倍速で増える」快感

信用取引を始めた最初の3ヶ月は、すべてが順調だった。

現物では100万円の利益だったはずの取引が、信用では250万円になる。「なぜもっと早く始めなかったんだ」と心底思った。

調子に乗って、保証金ギリギリまでポジションを持つようになった。

信用維持率(保証金に対するポジションの健全性を示す指標)は、本来なら200%以上を保つのが安全とされる。僕は150%を切ることも珍しくなかった。

当時、株探で銘柄を探し、Yahoo!ファイナンスの掲示板で「この株はまだ上がる」という書き込みを見ては安心していた。今思えば、あれは確証バイアスそのものだった。

 


2008年──リーマンショックの朝

2008年9月15日。

リーマン・ブラザーズが経営破綻した。

正直に言うと、最初は「アメリカの話でしょ」と思っていた。日本株への影響は限定的だと。

甘かった。

9月16日の日経平均は前日比600円以上の下落。そこから地獄が始まった。

毎日、朝起きるたびに株価が下がっている。含み損が10万、50万、100万と膨らんでいく。信用維持率はあっという間に100%を割り込んだ。

証券会社から追証の連絡が来た。

「明日の正午までに150万円を入金してください」

 


追証地獄──止められない転落

最初の追証、150万円は貯蓄から出した。

「ここで損切りしたら150万円が無駄になる。もう少し耐えれば戻るはず」

これが、僕の人生で最も高くついた判断だった。

日経平均はその後も下がり続けた。10月には8,000円台まで暴落。1ヶ月で40%以上の下落だ。

2回目の追証。200万円。

嫁に頭を下げて、結婚資金として貯めていた口座から出した。あの時の妻の顔は、今でも忘れられない。

それでも足りなかった。

最終的に、追証の支払いと強制決済の損失を合わせて、約500万円を失った。

 


5つの間違い

あの経験から18年が経った今、冷静に振り返ると、僕は少なくとも5つの間違いを犯していた。

間違い①:上昇相場を「実力」と勘違いした

2003年〜2007年の利益は、アベノミクス前の小さな上昇相場に乗っただけだった。地合いと実力の区別がつかないまま、リスクを上げた。これが根本的な原因だ。

間違い②:信用維持率の管理を怠った

150%を切っても平気でいた。車で言えば、燃料警告灯が点灯しているのにアクセルを踏み続けたようなものだ。

間違い③:「取り返す」マインドに支配された

投資で最も危険な言葉は「取り返す」だと、今なら断言できる。損失を取り返そうとする瞬間、人はリスク管理を放棄する。最初の追証150万円を払った時点で、冷静な判断力はもう残っていなかった。

間違い④:損切りルールを持っていなかった

「何%下がったら損切り」というルールを、僕は持っていなかった。持っていなかったというより、「自分には必要ない」と思っていた。5年間の成功体験が、最悪の慢心を生んでいた。

間違い⑤:一人で抱え込んだ

妻にも友人にも、損失が膨らんでいることを言えなかった。2回目の追証で妻に話した時には、もう取り返しがつかない状態だった。一人で抱え込むと、ブレーキをかけてくれる人がいない。これが一番致命的だったかもしれない。

 


あの500万円が教えてくれたこと

あの経験がなければ、今の僕はいないと思う。

500万円は「授業料」と呼ぶには高すぎる。でも、あの痛みがあったからこそ、その後の投資で「自分ルール」を徹底できるようになった。

僕が今でも守っている3つのルールがある。

① 1回のトレードで失っていい金額を事前に決める。

今の僕は、1つのポジションで口座資金の2%以上をリスクに晒さない。これを破った瞬間に、2008年の自分に逆戻りする。

② 損切りラインは、エントリーと同時に決める。

「もう少し待てば戻るかも」は、最も危険な言い訳だと身をもって知った。エントリーする前に「ここまで下がったら切る」を必ず決める。例外はない。

③ 「取り返す」と思ったら、その日は取引をやめる。

あのリーマンの数ヶ月間、「取り返す」と思わなかった日は1日もなかった。今は、その感情が湧いた時点でパソコンを閉じる。

 


そしてFXに出会った

実はこのリーマンショックの経験が、僕が海外FXを始めるきっかけになった。

株の現物・信用だけだと、下落相場では基本的に「耐える」か「逃げる」しかない。でもFXなら、売りから入ることで下落局面でも利益を狙える。さらに海外FXにはゼロカットシステムがあり、追証が発生しない。

あの追証地獄を二度と味わいたくない──その一心で、僕はFXの世界に足を踏み入れた。

もちろん、FXにはFXのリスクがある。業者選びを間違えて痛い目に遭ったこともある。それはまた別の機会に書こうと思う。

ただ、あの500万円の損失がなければ、リスク管理の大切さも、投資手段を分散することの重要性も、ここまで骨身にしみることはなかったと思う。

 


ひとりごと

500万円あったら何ができたか、たまに考える。答えは出ないけど、考えること自体が戒めになっている。投資で一番大事なのは「増やすこと」じゃなくて「退場しないこと」だ。あの時退場しかけた僕が言うのだから、たぶん間違いない。

 

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【連載①】日本の賃金が30年上がらなかった本当の理由──「頑張れば報われる」は、いつ壊れたのか

はじめに──この連載で書きたいこと

今日から不定期で「日本経済の構造」を掘り下げる連載を始める。

投資をしていると、どうしても目の前のチャートや決算数字ばかり追いがちだ。でも、株価の裏側にあるのは、この国の経済構造そのものだと僕は思っている。

第1回のテーマは「賃金」。

なぜ日本の賃金は、30年間ほとんど上がらなかったのか。


数字で見る「失われた賃金」

まず、事実を確認しておきたい。

厚生労働省の毎月勤労統計調査によれば、2025年の実質賃金は前年比マイナスで着地しました。これで4年連続のマイナスです。

名目賃金(額面)自体は前年比+2.3%と増えています。30年ぶりの高い伸びと言われた2024年に続き、賃上げの流れは確かにあります。しかし、それ以上に物価が上がっている。結果として、手元に残る「実質的な購買力」は減り続けている。

もう少し長い目で見ると、日本の平均賃金はOECD加盟国の中でも際立って低い伸びにとどまっています。1990年代前半をピークに、日本の実質賃金はほぼ横ばい、あるいは微減という状態が続いてきました。

同じ30年間で、アメリカの実質賃金は約40%増えている。この差は、投資家として見過ごせない構造的な問題です。


原因①:デフレという「ぬるい毒」

1990年代後半から2010年代前半まで、日本はデフレの時代にありました。

デフレとは、物の値段が持続的に下がる現象です。「物が安くなるなら良いことでは?」と思うかもしれませんが、企業の売上が伸びなくなります。売上が伸びなければ、賃金を上げる原資がない。

さらに厄介なのは、デフレ下では「値段を下げた企業が勝つ」という競争原理が働くことです。価格競争 → コスト削減 → 人件費抑制 → 消費減退 → さらにデフレ。この悪循環が20年近く続いた。

僕が株式投資を始めた2000年代前半、日経平均は7,000円台だった。あの時代の空気を覚えている人は、「賃金が上がる」なんて想像すらできなかったと思う。


原因②:非正規雇用の拡大

1990年に約20%だった非正規雇用の割合は、2025年時点で約37%まで拡大しています。

非正規雇用者の時給は上がっていないわけではありません。2024年のパートタイム労働者の時間あたり給与は前年比+4.3%と、統計開始以来最高の伸びを記録しました。

しかし、正社員と非正規の賃金格差は依然として大きい。そして統計上の「平均賃金」には、この非正規の低い水準が含まれるため、全体の平均を押し下げる構造になっています。

企業にとって非正規雇用は「調整弁」だ。景気が良いときは増やし、悪くなれば切る。経営としては合理的でも、労働者側から見れば「頑張っても報われにくい構造」が固定化されたことになる。


原因③:企業の「守り」の姿勢──内部留保という名の貯金箱

日本企業の内部留保(利益剰余金)は、2024年度で600兆円を超えたと報じられています。過去最高の更新が続いている。

企業は利益を出している。しかし、その利益を賃金として還元するよりも、手元に積み上げることを選んできた。

なぜか。

バブル崩壊の記憶だと僕は思っている。1990年代に借金で潰れた企業を数えきれないほど見てきた経営者世代が、「もう二度と資金繰りに苦しみたくない」と考えるのは、ある意味で自然だ。

ただ、その「守りの経営」が30年続いた結果、労働者に回るはずだったお金が企業の金庫に眠ったままになった。これが賃金停滞の大きな構造的要因だと思う。


原因④:生産性の停滞

賃金は本来、労働生産性と連動して上がるものです。

しかし日本の労働生産性は、OECD加盟国の中で長年下位グループに位置しています。特にサービス業の生産性の低さは深刻で、「長時間働いているのに成果が出ない」という構造が固定化してしまった。

IT投資の遅れ、中小企業の多さ、年功序列による人材の硬直化──原因は複合的ですが、結局のところ「同じ1時間で生み出す価値」が増えなければ、賃金が上がる道理はありません。


2026年、ようやく変化の兆し?

ここまで暗い話ばかり書いてしまったが、変化の兆しもある。

2026年の春闘では、前年並みの**約5.45%**という高い賃上げ率が見込まれています。2年連続で5%超なら、30年以上なかった水準だ。

さらに、2026年前半にはCPI(消費者物価指数)上昇率が鈍化する見通しもあり、第一生命経済研究所などは「2026年1〜3月に実質賃金がようやくプラスに転じる可能性が高い」と分析しています。

ただし、懸念材料もある。今週の中東情勢悪化で原油価格が急騰しており、これがエネルギー価格を通じて物価を再び押し上げるリスクがある。せっかくの実質賃金プラス転化が、原油高で台無しになる──そんなシナリオも頭に入れておく必要がありそうだ。


投資家としてどう見るか

賃金が上がらない国では、個人消費が伸びない。個人消費が伸びなければ、内需株は長期的に苦しい。

一方で、賃金が上がり始めれば、内需の好循環が生まれる可能性がある。小売、外食、サービス──30年間沈んでいたセクターが息を吹き返すかもしれない。

僕は今、その「変曲点」が近いのかどうかを注視している。数字はまだ微妙だ。でも、30年間動かなかった針が、ようやく震え始めている感覚はある。


ひとりごと

スーパーで卵の値段を見るたびに、実質賃金のことを考えてしまう。職業病だと思う。嫁には「またブツブツ言ってる」と呆れられるが、卵の値段にこそ日本経済の縮図がある。……と思っているのは、たぶん僕だけだ。

 

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今週の相場メモ #1|イラン攻撃、原油75ドル、日経平均1900円安──数字だけで振り返る1週間

今週の相場メモ #1──数字だけで振り返る1週間

毎週水曜に、その週の相場を「数字だけ」で振り返るシリーズを始めることにした。

コメンテーターの解釈も、アナリストの予想も、いったん脇に置く。まずは数字。数字を見て、自分の頭で考える。それが投資家の基本だと僕は思っている。

……とはいえ、今週は数字を並べるだけで胃が痛くなる1週間だった。


📊 今週の主要数字

日経平均株価

2月26日の高値59,332円から、わずか3営業日で世界が変わった。

3月2日(月)は米国・イスラエルによるイラン攻撃の第一報を受けて急落。終値は前日比約1,500円安。朝方は下げ渋る場面もあったが、引けにかけて売りが加速した。

3月3日(火)はさらに売りが広がり、終値は56,155円。前日比マイナス1,901円(▲3.28%)。一時は1,600円超の下落で56,000円台前半まで突っ込んだ。東証プライムの値下がり銘柄数は1,442と全体の約9割。ほぼ全面安だ。

高値からの下落幅は約3,200円。率にして5.4%。数字だけ見れば「調整」の範囲だが、体感は「暴落」に近い。

原油(WTI)

今週最大のインパクトはここだった。

2月28日、米国とイスラエルがイランへの軍事攻撃を実施。イランの最高指導者ハメネイ師の死亡が報じられた。

WTI原油先物は週明け3月2日に一時75.33ドルまで急騰。前週末比で12%超の上昇だ。8ヶ月ぶりの高値になる。北海ブレントも一時82ドル台をつけた。

背景にあるのはホルムズ海峡の事実上の封鎖だ。世界の石油海上輸送の約27%がこの海峡を通過する。タンカーの被害も報じられ、少なくとも3隻が損傷、船員1名が死亡している。

一方、OPECプラスは3月1日に4月から日量20.6万バレルの増産を決定。ただし、主要産油国の多くがホルムズ海峡を利用するため、増産が実際に供給を安定させるかは不透明な状況だ。

為替(ドル円)

ドル円は157円台で推移。中東リスクによるドル需要と、日本株売り→円買いの動きが交錯し、方向感が出にくい展開。今後の中東情勢次第で大きく振れる可能性がある。

 

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アジア市場

日本だけではない。韓国KOSPIは一時6%安。上海総合指数も1%超の下落。サウジのタダウル全株指数は2.2%安(ただしアラムコの上昇が下支え)。エジプトの主要指数も2.5%安。リスク回避は世界同時進行だ。


📌 今週、僕が気になった3つのポイント

 

1. 「想定外」が連続する地政学リスク

2月26日時点では59,000円台に乗せ、年初来高値圏だった日経平均が、たった数日で3,200円消えた。2025年6月のイラン核施設攻撃の時はWTIが78ドルまで上がったが、停戦合意で急落した。今回はハメネイ師の死亡という前回よりも深刻な事態。同じパターンにはならないかもしれない。

2. エネルギー関連株と防衛関連株の明暗

全面安の中でも、INPEXや石油資源開発といったエネルギー株は買われた。防衛関連も同様だ。「有事に何が買われるか」は、リスク管理の基本中の基本。自分のポートフォリオがどういうシナリオに弱いか、今週のうちに点検しておきたい。

3. 個人投資家の「含み益バブル」が試される

2月までの上昇相場で含み益を抱えていた人は多いはずだ。その含み益が一気に溶ける体験を、今週している人も少なくないだろう。こういうときに冷静でいられるかどうかが、投資家としての分岐点になると僕は思っている。


📅 来週の注目イベント

来週は米国の雇用統計(金曜)が控えている。中東情勢に加えて米国の景気動向も見なければならない。正直、変数が多すぎて予測は難しい。だからこそ、数字を追い続けるしかない。


ひとりごと

月曜の朝、モーニングサテライトをつけた瞬間の画面が赤一色だった。コーヒーを淹れる手が止まった。20年やっていても、この瞬間には慣れない。慣れないけど、慣れないからこそ、数字を書き留める。感情で売買しないための、僕なりの儀式みたいなものだ。

 

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